【映画感想】ソロモンの偽証前篇・後編(あらすじ・ネタバレ注意)藤野涼子・板垣瑞生・石井杏奈・佐々木蔵之介・夏川結衣・黒木華ほか


『ソロモンの偽証』予告編

WOWOWで放送していたので、観賞。
かなりの良作。
まず、役者が良かった。
今回の映画の主役は中学2年生の生徒(作中に3年になるが)。それがしっかりと意識されていた。全国オーディションで選び抜いただけあって、本当にどこかにありそうな中学校の一クラスというのが表現できていたと思う。ここに、事務所ごり押しの俳優とか当てあがっていては目も当てられなかっただろう。
ただ、中学生の役者にネームバリューが全くない分、脇を固める教師陣や大人たちにしっかりとした俳優がずらり。尾野真知子なんかも出ていたけど、別にあのポジションを尾野真知子にする必要性は全くなく、ただの映画の格を保たせるためのネーム要員だったと思われる。撮影当時は一番勢いのある女優さんだったからね。

さて、作品は前篇後編の2部作として、公開されていて、実質4時間越えの超大作。ただ、最近の2部作にして動員を稼ぐというあざとい手法を採用しているものの、内容が薄いということは全くなく、非常に凝縮されていたと思う。また、作品も事件編と裁判編に分かれており、2部作という形式が見事にはまった必然性のある2部作だったと言える。
そして今作はなんといっても、藤野涼子の演技が見どころだろう。父親が警察官で、幼い双子?の弟と妹がいる長女。学級委員も3年間勤めあげたという、基本的にまじめで正義感の強い優等生。見た目は凛としていてるが、決して美人ではなく、どちらかと言えば平凡だ。まさにどこにでも居そうな中学生である。
彼女には正義感の強さはあるが、中学生である年頃の弱さというものもしっかりとあって、今回はそれがこの話の主軸でもあるのだけれど、その弱さをしっかりと受け止め、裁判を通し、成長し、前を向くことができたということをしっかりと作中の経過の中で演技として表現しきっていた。
彼女の力強い表情で涙を流すシーンは必見。
強くありたい、強くあらねばという気持ちが表情として現れてはいるものの、悲しくてつらいという感情が意識を追い越してきて表現されたものが涙であって、その二つがきちんと伝わってくるシーンだった。涙の流し方が本当に上手いんだよね。

次に前田航基。どこかで見たことあるなと思っていたらまえだまえだの子供芸人か。彼のほのぼのとした雰囲気がこの殺伐とした作品に優しさを残していた。
後は石井杏奈。やっぱりこの子は上手い。E-girlsのメンバーだけど、完璧に女優向きだね。この前の仰げば尊しで、見せた柔らかい雰囲気と、今作で見せたきつい雰囲気。全くの別人だった。もちろん、セリフの一つ一つや、しぐさ表情なんかもすべてが自然で上手いんだけど、その役を演じているというかその役を体全体でなりきっているが故の身にまとう雰囲気までも変えてしまう演技力。こういうのが演技力っていうのかなあと感心。事務所の力ではなく、今後も重宝されそう。

役者の話はこのくらいにして、内容の感想。ソロモンの偽証というタイトル通り、誰かが嘘をついているんだろうなと思いながら視聴開始。冒頭で藤野涼子と前田航基によってクラスメイトの柏木が早朝学校の裏門から入った付近で死体として発見されるんだけど、それが、もう、その日の昼頃には担任の先生より自殺とクラスメイトに報告される。まずこの時点で少し違和感を感じる。作中でも発見者のふたりの無表情からその違和感を伝えたかったのではないかと思った。中学生の遺体が発見され遺書等も特に発見されていないのに、この数時間でもう、自殺と断定?本当にそうなの?といった感じだ。
最後まで、観てわかったが、この自殺する直前、自殺した柏木くんの小学生時代の友人である神原くんと屋上で会っていたことが分かったわけで、もしかしたら神原君が何らかの方法で突き落としたかもしれないという疑惑をかけるのは必然で、実際その可能性も十分にあって、だが、警察はその可能性を全く考えることもなく自殺と断定。学校側も生徒の自殺であった方がシンプルで処理しやすいという思惑があったからこその断定だったのではという疑惑が生徒たちもちろん、そう断定した先生や視聴者の心にも抱かれた。
そこで登場した告発文。柏木君は不良少年である大出君に突き落とされたのだとする内容。これにより、あれは本当に自殺だったの?他殺なの?そして告発文通りに、犯人は大出くんなの?という疑いが全校生徒に広がる。また、担任教師の黒木華宛に送られた告発文がたまたま隣人の変な人に盗まれたことにより、世間にも広まり、大問題に発展。当の告発文を送った張本人の三宅(石井杏奈)は、本当だと思い込み一緒に送った友人の松子に一緒に謝ろうと説得されるも断り、ショックで走って帰る松子は車に引かれ死亡。三宅はショックでしゃべれなくなり、不登校に。
生徒を追い込まないように慎重に告発文の発送者を突きとめようとし、概ね検討をつけていた警察と校長。その対応があだとなり、最悪の結果に。このことを松子の両親に謝罪しに行った校長のシーンが。もう、いたたまれなくて、涙涙涙。最後の裁判編でも追及があったけど、校長は本当に保身ではなく、生徒のことを思っての対応だったんだなと思えるシーンだった。だが、結局自分の判断が生徒が事故死してしまう要因を作ってしまったという事実は変えがたく、辞職という形になった。辞職という責任の取り方は、確かに少し卑怯だという印象もあるかもしれないが、どうしようもない。本人が生き抜く心を保つためには職から離れて物理的にその出来事から距離を置くというは許してあげたい。もちろん、辞職したんだからもう関係ないとのさばっている人たちは論外だが。

担任教師(黒木華)は、ある意味被害者だけど、それだけではない非も己にあったよね。そういう表現がされていたと思う。この映画は全体的にそういった登場人物にあふれていたと思う。被害者であり、加害者であり、責めに帰すべき理由を胸を張ってないと言える人間なんていないというところか。偽証しているのは自分自身でもあるというテーマも感じられた。
で、担任教師の最初自殺を知ったシーンでの自分を擁護する発言、柏木君は心を開いてくれなかった、目が怖かったから仕方ない、みたいなことを言っていて何言ってんの!?先生!?みたいになったわけだけど、これがこの先生の本質で弱い部分でもあったのであって、だからこそ、郵便物を捨てたのは自分ではないといった主張が誰にも信じてもらえなかったという要因にもなっていたと思う。それでも、隣人に全くいわれのない憎しみをぶつけられてしまうなど、可愛そうな側面の方がつよい。まだ、教師になって2年目というタイミングで、この事件に遭遇してしまいこれほどまでの中傷を浴びた以上もう、教壇に立つことはできなくなってしまい、本当に人生のすべてがくるってしまったのだと思う。最後の隣人に対して、あの、弱弱しい先生が殴り掛かるという行為を咄嗟にしたということが、先生の傷の深さを物語っていた。
そしてこの裁判を企画するよう、藤野に仕向け、大出君の弁護士までやった神原がすべてを知っていたという事実ね。神原が人一倍頑張る理由は全て自分のためだったということだったわけで。終始、賢く、大人びた印象を与えていた神原もそういった意味では非常に中学生らしくまとまっていたというのが、良かったと思う。あくまで、みんな中学生で、少し大人になりかけているけど、やはり子供なんだよという軸がずれていなくて、宮部みゆき、さすがと思った。
また、自殺した柏木くんの実態も神原の告白によって明確になってきたわけだけど、自殺した理由が、なんとも中学生らしい、世の中に絶望したという理由だった。世の中には絶望しているが、神原にはどうにか僕の気持ちを理解し、救ってほしいという幼さも垣間見れた。しかし、それを受け止めきれるほど神原は大人ではなかった。この事実を聞いた時の両親はどういう気持ちだったんだろう。中学生らしい歪みに入ってしまった息子。神原や、藤野に対して、相手の傷をえぐるようなやさしさのない発言をしていたという事実、そしてそのことに気づいてやれなかったという後悔。両親の悲しさも計り知れない。その辺りは映画ではあまり深く掘り下げられていなかったが、両親が涙するワンカットですべて物語っていたようにも感じた。
そしてこの裁判で唯一偽証し続けた三宅(石井杏奈)が裁判のあと、松子に両親に謝って号泣したシーン、観ている方も号泣です。死んでしまった人はもう、何をどうしても取り返しがつかない。三宅がその後どうなったのかはわからないけど、一歩は前に進めたんだと思う。
今回の裁判を行う目的は罪を断じるのではなく、進むにつれて理解していって欲しいと述べていたが、まさにその通りで、この裁判に参加したすべての人間が心にかかってしまった霞を本当の事実を知ることで痛みを伴っても取り払い、前に進めるようにことが目的だったのだなと。そういった意味ではハッピーエンドの映画だった。起こった事実が悲劇なだけであって。

そして、これは今の司法の裁判にも一石を投げかけているような気がしてならない。裁判は事実をすべて明らかにし、罪を受けるべき人は受け、そうではない人は明確に救済され、関係する人はわだかまりを残すことなく、一つの区切りとして前に進めるようになる存在であらねばならないと訴えかけているのだと思う。
良い映画だった。


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